L-M
BRIC NEWS
アルジェリアの遊牧民が用いていた L-M 組紐技法が1913年に初めて欧米に紹介されて以来、世界各地の文化圏での現行例が間欠的に報告されています。(注1)しかしこの技法の過去における存在が判ったのは、1979年に発表されたシュパイザーの研究を 嚆矢とします。これはイギリス、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館、米国ニューヨーク市のメトロポリタン美術館その他幾つかの美術館等が所有して いる、内容をほぼ同じくする17世紀イギリスの「見本帳」を典拠として解読復元されたものです。(注2) 丁度正倉院組紐が L-M 技法で組成されたものではないかと私(木下雅子)が考え始めた頃にあたります。
李家山の青銅塑像の存在が昨年(1997年)もたらされるまで、現在報告されている限りでは、L- M 技法の存在が確立できたと考えられる最古の遺品例は法隆寺献納宝物及び正倉院宝物中に見られる7ー8世紀の組紐類でありました。(注3)イギリス、スペインで15世紀に使われていたことを証拠立てる文書、絵画史料がみいだされた のは過去5年以内のことです。またスエーデン、ウプサラの大寺院が所蔵する、初期の拙いボビンレースと従来考えられていた15世紀のスダリー(司教の笏杖 カバー)のインサーションレースが、L-M 技法による組紐組成技法を基にして作成されたものであることが最近確認され、レースの生産にも用いられていたことが明かになりました。(注4)
このようにみていくと、 L-M 技法は、掘り起こせば歴史をいくらでも遡っていくのではないかとさえ思えるではありませんか。
中国漢代のL-M組紐
貯 貝器の蓋についている像は渡部順子(ワタベジュンコ)さんが、最近の中国行きで昆明から南 方約120kmの地にある李家山青銅器博物館の陳列品中にみつけたものです。(注5)渡部さん はこの貯貝器の蓋の女人群像のうちの2人がループ操作組紐をしているらしいことに気づきました。「綾取り」と説明されているそうですが、これはこのような 構図に通常あたえられる常識的な解釈です。しかし両掌が自分の方に向いていることと片方の人物の手が下方にあることは、綾取りとしては不自然な構図と思わ れます。高さ数センチに過ぎませんが、左側の女性が指に糸を掛け、右手の指がなにかをしようとしていることまでわかるような写実的な像です。図でも写真で も 紐端を低い位置でもっている右側の人物の手もとが見えないのが残念ですが、この2人を正面にした写真がでているだけでも幸運というべきでしょう。ほ ぼ、ループ指操作技法をしていると見て間違いがなさそうです。これは西漢初期(紀元前1世紀頃)のものとされています。これまでに見い出されたループ操作 技法の使用を示唆する最古の資料です。
渡部さんの写真コピーが届く数日前に「L-M 技法が7世紀を更に遡って漢代に存在したと考えるのも、あながち無理ではないのではあるまいか。」と、北京近郊の漢墓出土のレース様纓の組成技法がループ 操作技法であった可能性をあげた論文に書いて投稿したばかりの私にとっては、特に嬉しいニュースでした。中国漢代の交易の範囲から見て、中国の南部で使わ れていた技法が北部にもあった可能性は充分に考えられるのではないでしょうか。(注6)
インドの金糸組紐師
図4は、金糸を使って紐を組んでいる組師。インドでもL-M 技法が使われている事実を示す資料です。「掌向かい合わせ」に、両手の人さし指、中指、そして左手の薬指にループを掛けて持ち(ループ数5)、足で組口を 押しています。指操作技法の場合この時点ではすぐに次の操作に移れるように操作指がすでに空いているのが普通です。ということは、この絵の描写が正確であ れば、この技法は「薬指か小指を操作指とする、組口がV型の組み方」である可能性が高いことになります。いずれも掌は向かい合わせ(あるいは上向き)で、 西のA型組口(人差指で操作)の組み方、東のV型組口(小指か薬指で操作)の組み方、その中間にあるインドではどちらなのか、興味深い一点です。角紐(正 規組織)、半月形(不正規組織)のいずれを組んでいるかはわかりません。50年以上を経過した今も残っているでしょうか.
これによって、20世紀半ば頃にL-M組紐を使っていた国、アルジェリア、ボリビア。デン マーク、ブルガリア、アイスランド、日本、モロッコ、オマン、ロシア、すぇー伝などに新たにインドが加わったわけです。
ドイツ13世紀の壁絵は組紐?
図5について、これが掲載れている本の著者(Everhart Froubein)は組紐をしている絵と説明しています。壁絵を近年実見した 人からフラックス麻の工程の一つで、組紐ではないという意見もでているということですが、私にはもう一つ納得がいきません。(注7)手もとが明確に描かれていないうえに、絵が修復された時に詳細が原画とはちがってしまうとい うこともよくあることです。この絵は6面の壁絵の一つなのですが、他の5面の絵と絵の周辺に書いてある説明から建物が絹を使った袋物などの仕立て屋であっ たと考えられるので、組紐(ループ操作)作業とした方が適当なようにも思えます。これがループ操作技法と確定すれば、13世紀ドイツで用いられていたこと になり、ヨーロッパでのLーM最古の技法使用を示す資料です。
図4と5の情報はFrieda Sorber(フリーダ・ソーバー)さんから2年ほど前に頂いたものです。(注8)ループ操作組紐を記録するためのしおり
これはたまたま、ループ操作組紐を知っている人にで あったときに、記録を取るための要点のリストです。記録が取れたらセンターまでお知らせ下さい。謝辞:本号の記事の情報をもたらしていただいた、渡部さん、ソ−バーさん、シュパイザーさん に感謝します。
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