L-M BRICニュースイラスト技法解説シリーズ第12 日本語版                            2009/06/01 ©2009

ループ操作組 紐技法研究情報センター/編集・木下雅子

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L−M BRIC ニュース 第12号

 

 英語版ルー プ組紐技法解説シリーズ#12




イ ラスト・ル−プ組紐技法解説シリーズ #12

 

ジ グザク縞丸組紐の組み方

 

今 回はL-M BRIC ニュース第8号に掲載した、17世紀イギリスの印刷版のループ組紐の記録中の手順#66:ジグザグ縞の組紐の組み方を紹介する。3本の2合撚り糸からなる斜行縄連組織の筋 柄2本が鋸歯状に蛇行するループ数12の丸紐である。2筋の一方は白、他方は黒地に黄色が斑点状に入って、蛇を連想させる。本稿の著者はこの組み方の解読者 Joy Boutrupである。

この記録はNATURA EXENTERATAと言う大英図書館所蔵の古印刷本で、薬の処方、料理の献立などの記録を含む所謂HOUSEHOLD BOOK中に見出されたものである。Joy Boutrup とNoémi Speiserの調査で、ループ操作組紐技法の記録はElizabeth Serene 夫人の編纂とされ、セレーン本と呼ぶことになった。これまでに知られるイギリスのループ組紐の古記録であるTollemache, Harleyなどの15世紀本の流れを伝える技法を多く含むが、 幾つかの初出手順を含む。これ以前の記録に見られる蛇行する斜行縄連組織は唐組系統の蔦状蛇行のもののみであるが、#66 は鋸歯状に蛇行する2本の太い縞からなる筒状丸組紐で、台組技法を含めて他例を見ない。

 

セ レーン本 #66 ジ グザク3色縞組 紐の組み方

By Joy Boutrup

 

Serene, Natura Exenterata, 1655, British Library, E. 1560.778.c.3, p. 437 より

 

"A lace vice of three colours"

"Take six bowes white and four black and two departed, that one side black and the other yellow. Then set three white upon B, C, D right and two black on B, D left and one departed upon C left. And also do thy fellow, save that thy left hand shall be like to his right hand, and his left hand to thy right hand. And then reverse thy bowes right and take with A right through B, C, D right the bowe D left and also do thy fellow. And afterward low your bowes left and take then with B left his bow on A right and he shall take with B left thy bow A right and look that it be under all the bowes; And then begin againe and this lace shall be a vice. When you have made a coupen this manner, work then with your left hand as you did with your right till when you have another coupen and then shall you have a faire vice."(原文)

ループ数:12   1色ループ 白:6 黒:4   2色ループ  黒/黄:2

組み手はそれぞれ、左右の手の  中、薬、小指 にループを一本ずつ掛ける

色糸初期配置: 2人の手に鏡像に配置する。2色ループは黄色を下糸にする


左手 1
右手 1
左手 2
右手 2
指a 指b 指c
指d 指d 指c
指b 指a 指a 指b 指c
指d 指d 指c
指b 指a
- 黒・黄 - - 黒・黄 -

 

2人の組み手に対して色配置は鏡像であるが、 操作は 同方向である。連結組みでは鏡像操作の場合が多いが、この組み方は例外。

原文で用いられている "coupen" と言う語を、同色配置の区画が繰り返す文様からフランス語の "Coupon" 即ち「区画」或いは「繰り返すこと」を意味すると解釈した。各区画は色糸順が元にも戻るまで、即ち手順6回を繰り返して形成される。

私の解釈では、操作の向きが6回毎に逆向きになる。この方向転換は色糸配置から見ても妥当と思われる。原文からは同方向に組み続けることも考えられる が、その可能性は少ないと思う。

この組み方には2人の組み手間の ループ交換はなく、1本のループを隣の組み手の隣接する手及び 外側の手から外側の手に一方的に移す。 外側手の間でのループ移行は手の下で行う。この移動によって、2人の組み手がそれぞれ組成する斜行縄連組織平紐が繋がり筒状丸紐が形成される。

紐は2画から成る斜行縄連組織で組成される。先ず2人の組み手は、それぞれの右手のル−プを半回転捻り、右手の人差し指を捻った ループの中を通して左手(小指)のループを取る。左手の2本ループを差し替え(空いた中指で移ってきたループを受け取)。右手の3本は移動しない。これを6回繰り返す。

次いで、2人の組み手は、それぞ れの左手のル−プを半回転捻り、左手の人差し指を捻ったループの中を通して右手(小指)のループを取る。右手の2 本ループを差し替える。 左手の3本は移動しない。6回繰り返す。

手順:

手順前半

操作1:2人の組み手は共に先ず 右手の3本のループそれぞれ半回転(reverse) し、次いで右人差し指を捻った3本のループの中に通し、左手の小指のループを取 る。

左手のループを(小指の方に向 かって)差し替える。

操作2:右側の組み手は空いた左 中指で左側の組み手の今取った右手人差し指のループを取る。

操作3: 右側の組み手は操作1で取った右人差し指 のループを、全てのループの下から左側の組み手の空いた左手中指に渡す。

しっかりと打って組織を緊迫す る。

手順前半を6回繰り返したら、ループ配置が初期に戻る。

手順後半

前半と同じだが、左右を入れ替え た操作を6回行う。

手順後半を6回繰り返してループ配列が再び初期に戻ったら始めに戻り、繰り返す。

写 真 セレーン#66 黒色蛇行柄の半面と白色蛇行柄のその反対側の半面を見せる。 作成、撮影:J. Boutrup © 2005  

(J. Boutrup 寄稿 'セレーン集 #66 の組み方' 終り)<邦語翻 訳責任:木下雅子>

 

<編集者蛇足>

  2色 ループの移動及び受け渡しでは、ループの上糸が取った後も上糸になるように気をつける。

  手順前半と後半では、ループを捻る向きは同方向でも反 対方向でも良いが、一貫して行う。

  紐名 "A lace vice of three colours":色違いの菱形がぐねぐねと繋がる色柄の丸紐で、 vice/らせん階段と言う意味が尤もらしく思われる。 

 

組紐「セレーン #66」の組み方図解:(図1)

ジグザグ縞丸組紐この手順で6回ずつ繰り返す前半と後半の手順の3回毎に組成される組織区分を菱形のタ イル(coupen)に表示して構成した丸紐、 「セレーン #66」の展開図を示す。組み手はそれぞれ黒黄2色ループを左右の手に1本ずつ持つが、この図解では無視して黒1色のループにしてある。

この組紐は、手順の前半及び後半の3回ずつの操作に よって組成される斜行縄連組織の菱形区域(タイル)が順に8箇繋がって構成されている。2本のジグザク縦方向筋のつなぎ目には短い芯要素の浮きが残る。左 図は組成中のループの配置を組成過程に従って配置したために、右側のジグザグ色柄が繋がっていない。右図は、タイルの配置を置き変えて2本の鋸歯状柄が並 ぶように描き直したものである。即ち左図と右図は 同一の丸紐を異なる切り口で展開したものに過ぎない。右図には縄連組織の表面要素を濃色で、軸要素を薄色にして、縄連組織の傾斜の向きが見やすいようにし た。

2人の組み手の左右の手に配置されたループ各3本をひ とつのグループとして、初期配置の位置で左から順にA, B, C, Dとする(上図)。手順前半を3回繰り返すと、BとDループの配置は初期と変わらないが、AループはL2に、CはL1に移動する。この3操作では、Bルー プを表面組織とするタイルとDループを表面組織とするタイルが左右に並んで形成される。タイルを形成する表面要素グループ(大字フォント)とそれらに交差 す る軸要素グループ(小字フォント)の名称を並べてタイル名を表記する。即ち、手順前半1−3回で組成されるタイルを BA,DCとする。同様に、手順前半の4−6回で組成されるタイルをBC,DA、手順後半1−3回のものをAB,CD、手順後半の4−6回のものを AD,CB と表記する。

手順前半の6回の繰り返しでは、組み手の右手のループ (ブロックBとD)が、後半6回の繰り返しでは左手のループ(ブロックAとC)が 交代しながら繋がる。

これらの8枚のタイルを図のように繋げば、手順前半6 回、後半6回を繰り返す手順で組成される

丸組紐#66の鋸歯状の2本の縞柄斜行縄連組紐ができ 上がる。

 

ジグザグ縞柄斜行縄連組紐 にみられる2人組連結法について:

複数の組み手で人数分の紐を耳で繋ぎながら組むことにより 幅広の紐をつくることができる。その繋ぎ方の1方法として、仮称「同時交換連結法」が15世紀イギリスの記録「ト ルマッシュ家の秘伝・紐組み論」に記載されている。他の2法、仮称「連動連結」、「逐次連結」等については第1法と共に日下部啓子氏が本刊で触れており、 また間近く発行されるシュパイザー/ボウトルプ著 "EUROPEAN LOOP BRAIDING=ヨーロッパのループ組紐" に於ても論考されていると聞く。但しセレーン#66組紐で用いられている連結法がS/B書中に含まれているかどうかは編者は知らない。

さて、セレーン#66 組紐も2人組であるから組み手は連結操作がある筈で、ここには上述の3連結法以外の方法が用いられている。この方法は編者が知る限りではループ組紐技法の みならず他の組紐技法によって組成される組紐の中にもこれまでになかった組織の組紐を生み出した。これがセレーン夫人の創案かどうかは編者は知ら ない。

通常に使われる上記3 種の連結法では、2人の組み手がそれぞれの内手に持つループを他の組み手の内手に手渡す相互交換によって2本の紐が幅方向に繋がる。

#66紐では、ループは一方向 きに隣接組み手に渡される。即ち、左組み手のループは右組み手の内手のループの中を通って外手に渡る、右組み手は外手の最外側のループを手の下で左組み手の外手に手渡す。つま りこ れで相互の手中のループ数が一定に保たれ、筒状組紐が組成される#66組紐では、初めに続けて 6回右旋回、ついで6回左旋回の連結操作をして、ジグザグ構造の筒状組紐が 組成される。

<編集者蛇足終り>