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特集『レース組成技法としてのループ操作技法』
L-M BRIC
NEWS No. 3 が、昨
2000 年5月に発行された後、ループ操作組紐技法(l-m
braiding)に関係する新資料3件が見出された。いずれもレースの組成技法であることが興味をそそる(注1)。それまで3件の l-m
によるレース組成法の存在が知られていたが、新事実3件が加わり、かつてヨーロッパでレース組成に l-m
技法が広範に用いられていた時代があったことが明らかになってきた。これまで看過されていたこの事実は、テキスタイル及びテキスタイル技術史の研究に関連
する人々にぜひ知っていてもらいたいことである。その理由から、本号を『レース組成技法としての l-m 技法』として特集することにした。
これまで知られていたループ操作によるレース組成技法
I.「キャサリンの車輪」(注2):17世紀英国の
「パターンブック」中にある。ループ
操作によるレース組成法として知る限りでは最初に見いだされた3色柄レースである(注3)。3人
で各自5本のループを持ち、各自でまた時には隣接組み手と連結しながら組む。 (写真左)
II. マスケル紐(Lace Maskell)とフ
レッティス(透かし)紐(Lace
Frettys) : ループ8本を使うこの1人組み 2 色レース紐は本ニュース第3号で紹介したイギリス15世紀の『トルマッシュ家の秘伝書』
中の「紐の組み方」に記録されている(注4)。マスケルは平紐、フレッティスは筒状で中に通した
芯紐が透けて見える。この2種は、組成技法としては1件とみなす。 (写
真左)
III. スエーデンウプサラ大
聖堂の寺宝の15世紀のスダリーについているインサーションレース(注5)。(Fig. 1) このスダリーはウプサラの大司教であった
ヤコプ・ウルヴソン(Jakov Ulvsson, 1469-1515) の所有品とされ、ヴァステナ(Vadstena)
のブリジット派尼僧のテキスタイル工房で作成されたものである。
シュパイ
ザーはこれが「ボビンレースの最古の例品」とされていることに疑問を抱き、M. ソンディー(注6)
と共に組織の詳細を観測調査し、l-m 技法特有の組織の不整を見いだしてこれが l-m 組成であることを確証した。
赤、青、
緑の絹糸と金糸が用いられ、緑が両端の畝、他の3色が交錯して中間組織を形成する。各自でループ3本持ち4人で組んだとするのがもっとも妥当であろう。
新発見の3件
IV.DAS
LINTWURM PORTLEIN=ドラゴン組紐の手順はウタ・バーグマンが15世紀ドイツの手稿中に発見した。木下に報告され、ヨーロッパ系
統の l-m 技法研究の第1人者ノエミ・シュパイザー に送られた。
V.
奇妙なレース組成法を17世紀イギリスの手稿中に見いだしたラインカ・スウィンバーン は、著名なテキスタイル史研究家S.レヴィー
に問い合わせた。レヴィーはこれを仕事上の親しい友人であるシュパイザーに渡した。
VI.
2着のコープについているイギリス製の飾りレース(ポルトガルのポルタレグレ司教区所蔵)の写真(注
7)から、これが l-m 組成ではないかと気づいたマリールウィーズ・フランゼン(注8)
はその写真をシュパイザーに送った。
シュ
パイザーは、ドイツとイギリスの手稿は共に「キャサリンの車輪」の手順と同じものであり、ポルトガルのコープに着いているレースは、組織の細部を観測する
ことなしに確言はできないが、l-m 組成の可能性が高いとしている。
ハIV. DAS LINTWURM PORTLEIN= ドラゴン紐が記録されていた
ハ
イデルデルベルグ大学図書館所蔵15世紀の手稿について
ウ
タ・バーグマン(注9)

Das Lintwurm
portlein
Item
wildu dringen* ein portlein hast ein
lintwurm
so mussen eur 3 dar zu sein
vun
jeliche 5 schlingen haben ein varb das
zu
der rechten hand stett musz das sein aus
der
lincken hant obers nemen und an der
rechten
vntten vnd musz mit zur selbe
5
mal durch bringen order 7 mal und
die
andern 2 nemen es pede untten vnd
bringt
auch jelche 5 mal durch vnd dasz
zu
der unten stett musz mit der lincken
hant
durch die obern schlingen greiffen
zu
dem nesten an der lincken seitten
vund
musz
sein obere schlingen an der lincken
hant
durch die sein nemen
(ウタ・
バーグマン転写)
「指
ループ」の判じ物は、商業関係のドイツ古文書集の中にリストされている手稿中に見つけた。手稿は中で何度か手が替わっている。207 ページ中始めの
115
ページは織り帯の柄出し、続いて諸病の治療薬が長ながと続き、それから鷹狩り、そして狩猟の擬餌、ソースやコンポートの調理法など。そこに突然「ドラゴン
紐」が飛び出す。その後は馬とか鶏とか。
Lintwurm
とは「くねるworm(足のない虫類)」と言う意味からドラゴンになるので、くねくねとした色柄の紐かもしれない。こんな不備な説明で通用したらしいこと
から推測すると、誰でも知っていた技法に違いない。
手稿の年
代は、1400 年代中期から後期にかけてのものと想定されるが、もう少し早い可能性もある。
ニュール
ンベルグの
Klarissenkloster(貧しきクララ修道院)で書かれたものであることが、織帯の柄名が殆どニュールンベルグの貴族の家名であることなどから
推定できる。更にこの中の織り帯のデザインが、同修道院のアンナ・ノイパが約半世紀後の 1517
年に著わしたの手稿中の金糸織の帯のデザインに似ていることも推定の根拠である。
この修道
院は、ニュールンベルグがプロテスタントになったため1525
年以後は見習い尼僧を迎えることを禁止され、最後に残った尼の死によって1596年に閉鎖された。図書は散逸し、この手稿はオットー・ハインリッヒ・パラ
ティン選帝候の図書館に収まっていたが、30年戦争の結果ハイデルベルグを占領したババリア公によって、その蔵書はすべてバチカンに贈呈された。その後さ
まざまの交渉を経てドイツ語の手稿のみがハイデルベルグに返還されて大学の図書館に収まったのである。
それにし
ても、この手稿が500 年以上も経った今、新たに日の目を見るとは驚くばかりである。(バーグマン稿終り)
*
シュパイザーは 'dringen' の語が、ドイツとスイスの国境の町コンスタンツにある13世紀 の「糸
紡ぎの家」の壁画の一つで2人の娘がループ操作かと思われる仕事をしている情景についている表題中に使われていると指摘している(注10)。この語はここで現代ドイツ語では意味をなさないが、中世ドイツ語では、組紐、篭、垣根、縄
など、種々の繊維素材を使う作成作業を意味し、日本語の「編む」にほぼ相当する。この壁画が果たしてループ操作の情景かどうかの決め手はまだでてこない
が、この画中に見られる語が、新発見の15世紀ドイツのループ操作技法の作業に用いられていることは、この絵がループ操作であるとする解釈の妥当性を一歩
進めるものと言えよう。これが確証されれば、この壁画はループ操作技法の実在を示す現存最古の絵画史料になる。
V. ドーセット侯爵夫人の蔵書から…アントニー・ルイス氏が書写せし…医薬品の本
ノ
エミ・シュパイザー
レ
インカ・スウィンバーン(Layinka N. Swinburne) は、1590 年ー1830 年間のイギリス北部の古文書 40
件余中に医薬関係処方箋を探している時に、数行の奇妙なレース組成法の記述 に気付き、著名なテキスタイル史研究者
サンティーナ・レヴィー(Santina Levy)に問い合わせた。レヴイー はこれがループ操作であることを直ちに理解し、私に回してくれた。
以下は、
スウィンバーンの手紙の引用である。
”大英図
書館の蔵書、手稿 スローン 556
は、アン・クリフォード夫人の蔵書であった原本から、家内の誰かが書写した本で、内容は料理調理法や家畜類の治療法処方箋のコレクションである。大多数は
17世紀初期の形式のもので、コレクションの寄稿者は通常の貴族階級ではなく下流の紳士階級とみられる。
書名は
「ドーセット侯爵夫人のコレクションより:アントニー・ルイス氏が 1696 年 1 月 20
日に書写せし大多数或いは全て治癒に用いる医薬の本」となっている。
ドーセッ
ト侯爵夫人とはアン・クリフォード夫人のことで、ルイスはクリフォード家の執事であろう。
アン夫人
の若い時代の関心は絹の生産であったことが、夫人の葬儀の式辞に述べられている。有名なアップルビイの3枚続き画中の肖像画には刺繍と刺繍材料をのせた
テーブルのそばに立つ夫人が描かれている。”(シュパイザーの寄稿終り)
以
下にスローン及びキャサリンの車輪の組み方と後半が欠落しているドラゴンの組み方の邦訳を並べた。比較しやすいように同段階に当たる操作に同番号をつけ、
段階の切れ目ごとに改行した。キャサリンの車輪の組み方はイラストL-M組紐技法入門シリーズにいれた。入門シリーズに入れなかったドラゴン、スローンの
原手稿とも並べて比較して欲しい。
SLOANE 556 (British Library) f.31
+1
ループ数15(注11)、3人で組む2色レース。濃色10本、淡色5本。淡色は中の一人が、濃色
は外側の2人がそれぞれ5本づつ持つ。
+2 3
人ともループ2本を通すが、中と右側の2人は両方とも上(糸)を取り、左側は一方は左手は上(糸)を、右手では下(糸)を取る。始めはそれぞれが一緒に5
回か6回組み、3本のループが中の組み手寄りになるようにする。
+3 そ
れから、中の組み手はまず右(の組み手)とループを交換する。たんびに2回。
+4 両
方ともする
+5 中
の組み手は左の組み手と同じように交換する。
+6 中
の組み手は5回、他の2人はそれぞれ5回組む。
+7 そ
れからまた前のようにして交換する。
(レイン
カ・スウィンバーンの転写より木下が翻訳)
The Katherine Wheele

+
1 赤
色のループ5本を一人に、白色ループ5本をもう一人、緑ループ5本をもう一人に
+2 ど
の手もprivate stitch (注12)以外は2本のループを通って下の指の(ループの)上(糸)を取り、以下のようにして組む。
+3 中
の組み手が外側の組み手のどちらかの一人と、互いの色が入れ替わるまで組む。
+4 外
側の組み手は4回、中の組み手は3回それぞれに組む。
+5 中
の組み手はもう一人の外側の組み手と同じようにして組む。
+6 今
の外側の組み手は5回、中の組み手は3回それぞれに組む。
(シュパ
イザーの転写より木下が翻訳)
V
& A Picture Library インターネット転写許可 2003
ドラゴン紐
+1:ド
ラゴン紐を組むには、組み手3人がそれぞれに異なる色だが、各人は同色のループを5本づつ持つ。
+2:右
(側の組み手)は左手ループを上から取り右手ループは下から取るこれを5回か7回行う。
他の
2人は下からとって中を通して各自で5回持ってくる。
+3:下
方(右側)に位置する組み手が、(その左手人さし指のループを)左側組み手の人さし指のループを通して渡す それから左側組み手の人さし指のループを取
る。
上記3手順を比べると、始めの3段階は並行し
ており、ドラゴンには手順の後半が欠けていることがわかる。そのいずれでも、4本の2畝平組紐(蛇腹組)と1本の4畝平組紐(重打)が一定の間隔をあけて
つながる2層組織が形成され、出来上がれば2巾の左右鏡像対称オープンワーク紐になる。ただし詳細には相違があり、スローンは2色柄で、+3段階を2本の
ループを入れ替えると解釈するか(シュパイザー)、ループを2回交換すると解釈するか(木下)で2色交錯柄か縦縞柄かの相違がある。他の2手順は3色が交
錯する色柄である。また、平紐の組み方では、イギリスでは一方では「上(糸)」を取り、他方は「下(糸)」を取るが、ドイツの手順は左右ともに上(糸)を
取るということで、方式が異る(注13)。
ループを
交換して組織を連結するための方法は17世紀の「パターンブック」には解説がない(注14)。
15世紀の記録「紐の作り方」には具体的に記録されている。
VI. ポルトガルのコープ
シュパイザーからの私信によれば「この写
真を掲載する書籍にはコープがイギリスの宗教改革後ポルトガルに渡来したらしいことと20世紀半ばに修繕されたこと以外は記載がない。フードの縁に沿って
刺繍と房縁の間に挿入されているレースはキャサリン式で、2色の色柄効果で金色のトカゲが中央軸に添って身を延ばしているように見える。」とある。これは
まさにドラゴン紐ではあるまいか?
いずれも細幅レ−スである6件中、5件は原理
的に同じ組み方であるが、 II のみは組成原理が全く異なる。
III
とV ではループ交換を2回続けて行う絡み組成法が交換1回のみの交叉組成法と共に使われている。
III
と IVの2件が修道院に関係していることは、中世期における手工芸の伝承、発展に尼僧が寄与した役割を示唆する。
IV
と V
は共に、料理や薬餌の調理法などの記録中にまぎれ込んでいた印象であるが、これは単なる偶然ではなく、レース技法が他の主題と同類の情報と見なされていた
ことを示すものであろう。
イラストL-M
指操作組紐技法入門シリーズ no. 4
事項解説
「キャサ
リンの車輪(Catherine Wheel)」組み方
蛇腹組
組み方
4畝平組
組み方
ループ操作組紐を記録するためのしおり
これはた
またま、ループ操作組紐を知っている人にであったときに、記録を取るための要点のリストです。記録が取れたらセンターまでお知らせ下さい。
・英国のループ操作技法のみならず、現在知ら
れる限りのループ操作によるレース組成技法も全て復元されたシュパイザーさんが、特に後者に関する研究について書いた論文を無料配布されています。御希望
の方は直接No士i Speiser, Ziefenerstrasse 26 CH-4424 Arboldswil, Switzerland;
電話 & Fax(41) 61-931-2155 まで御連絡下さい。
ループ操作技法関係の活動(2000年1月よ
り 2001年3月まで)
・展覧会
等:本間一恵 01年2-3月, Fiber as Art 2001展、東京、福井等.星野
泰子 00年2月, バスケタリ−展、東京.星野泰子、木下雅子 00年6月, Convergence 2000, オハイオ州シンシナティ.
・講習会
等:川辺千佳代 00年7月, 11月, 12月 の3回, 大谷女子短期大学.木下雅子 2月, 9月 マサチューセッツ州アマースト近郊,
7-8月 東京, 大阪, 生駒 で講習会, 勉強会など.武千枝子 ガテマラ原始機工房の常設教室 船橋.
・委嘱制
作:西岡千鶴 京都国立博物館蔵国宝阿須買神社伝来古神宝類中上差袋の紐修復復元.
・出版発
表等:シュパイザー 'Old English Pattern Books,' Strands 2000, '00. 同著者 Old
English Pattern Book for Loop Braiding, 私家版:2000.
皆さんの、l−m技法関係の御活動をお知らせ
ください。
謝辞
センター
にもたらされた報告は、ループ操作技法はかつて日常用いられていたものに違いなく、その記録や遺品は見いだされるのを待っているばかりなのだという確信を
裏書きするものである。この技法に関心を持つ人が丁度その時そこにいさえすればいいのだーーとは言っても、そこで記録を書き留め、送る手間をかけるのは誰
にでもできることではない。報告者の方々には厚く感謝する。
・M-L Franzen, L. N.
Swinburne, U. Bargmannからは情報提供を; U. BargmannとN. Speiserには本号に寄稿を; J.
SaunderとSpeiserには協力献金を頂いた;ほかお手紙を頂いた皆さんに感謝します。
L-M BRIC News は
ループ操作組紐技法の知識と理解を広ろめるため、年1回発行、印刷版を無料で配付しています。御希望の方は編集者までお知らせください。但し御理解者の献
金は歓迎します。
協力献金
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14850 U. S. A.
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